2006年09月15日

トイレ考古学の本

松井章著「環境考古学への招待」(岩波新書)
 ー発掘からわかる食・トイレ・戦争ー
 777円(税込)2005年1月 第1刷

環境考古学の一分野、トイレ考古学というのは、新しい学問分野のようだ。
トイレの遺蹟の土壌から世界で最初に寄生虫卵が発見されたのは、イギリス・ヨークで1981年頃のことだそうだ。銀行建設予定地の土壌を顕微鏡でのぞいている時、花粉や胞子にまじって、回虫の卵が発見されたという。(p51)
「実は考古学でトイレ遺蹟というのは最大の謎の一つだった。全国で毎年1万件を越える発掘が行われているが、トイレの発掘例は今でもまれである」(p45)
なぜなのか?
「(日本の土壌の多くが火山性の酸性の強い土壌で被われていることから)骨の保存条件と同様に、トイレの堆積物、つまり糞便もまた残りにくいからである。乾燥した遺蹟では、雨が降れば水が染み込み、日が照ると干上がることが無数に繰り返される。そうした環境が、トイレ土壌を形成する糞便の主成分となる有機遺物の保存にもっとも悪いのである。」
穴が発掘されても、柱穴、ゴミ穴、貯蔵穴などはすぐにそれとわかるが用途不明のものも多く、トイレの穴もそこに含まれていることが推察されるが、糞便遺物がなければ、はっきりしたことはいえない。

では、どうするか?
ここから現代のトイレ考古学がスタートする。
この本も著者のトイレ考古学への強い思い入れから熱意をもって語られている。

素人の思いつきで言うと
昔のトイレを知りたい動機は
1、そもそもどんなトイレだったのか、いつトイレのかたちになったのか。
2、トイレに残るものからその時代の生活、習俗、食べ物などがわかる
という2点がありそうだけれど、トイレ遺蹟が特定できないことには話は始まらない。

著者らの注目したのは、トイレ土壌の成分分析と寄生虫卵であった。
これだと、ちゅうぎ(へら=昔は紙のかわりに使われていた)のようにすぐにトイレ遺蹟とわからないが、しかし、その方法が確立されるとトイレ土壌の分析から全体像がわかるというメリットがあるようだ。
とくに寄生虫卵は、宿主となる動物の消化器官の中で、胃酸をはじめ強酸の条件でも溶けないで身を守るために酸に強い殻をもっている。土壌中に保存される時間が長くなる性格がある。
ところが、その寄生虫卵のみつけ方がわからない。寄生虫の専門家も、遺蹟の土からどうしたら寄生虫の卵を見つけられるかまったくわからなかったそうである。
ここから、専門家との共同研究が始まる。寄生虫についての詳細な記述がある。
おもしろい。(p52〜)

土壌の化学分析は、奈良女子大の院生が修士論文まで仕上げて発表したが、今はやめており、研究者がいないそうだ。「6,000人以上の考古学研究者がいるけれど手際よく発掘をこなせる能力だけが重視され、このような(化学)分析をいかす職はほとんどない」のが、現状だそうだ。
水質検査機関に働くひとなら、案外、適しているかもしれないと思って読んだ。

まだまだ未知の分野が多いが、
トイレの歴史は3期に分けられるそうだ。
1、家や集落のまわりですませ自然の分解作用にまかせていた時代。
2、集落をとりまく環壕や近くの河川に垂れ流していた時代。
3、汲取り土坑トイレの時代。糞尿が肥料として利用される時代。

肥溜めと畑での再利用は、文献的には鎌倉時代以降が定説とされているけれど
この本の著者は、藤原京の汲取りが、その可能性をしらせるものでもう少し早いのではないかと言っている。

食べ物、動物(牛、馬、犬)などとのかかわりも
環境考古学で扱うようだ。
戦場の考古学という分野もこの本の後半にある。
発掘の派手なニュースの多い考古学だけど
一つのものから、複合的な判断で昔の世界をリアルに復原する・・・その推論をする。そんな楽しみに満ちた学問のようだ。トイレや古代の環境もどんどん書き換えられて行くだろうと思う。
posted by 村のトイレ屋 at 06:36| 山口 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 本の感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック